パンの耳

 

パソコン教室帰りのバスの中での事です。

 

途中から松葉杖をついた40歳ぐらいの男性がおぼつかない足取りで乗り込んできました。

 

生憎車内は混んでいてその男性は座ることが出来ませんでしたが、男性の周りには私よりはるかに若い乗客や学生がいましたから誰かが席を譲るだろうと離れた席から様子を眺めていました。

 

ところが、案に相違してバスが発車しても誰も席を譲ろうとしないのです。

 

それどころか寝たふりをする人も出てくる有り様です。

 

まぁ、今更珍しくもない光景ですが、何しろ松葉杖ですからね!

 

こちらに手招きをして席を譲ってあげましたよ。

 

男性は「ありがとうございます!」と言いながら席に着きましたが、すぐバッグから袋を取り出してなにやら食べ始めたのです。

 

~く見るとそれは食パンの耳でした。

 

パンの耳って、それだけではチットも美味しく無いと思うのですが、よほどお腹が空いていたのでしょうか? 

 

周りの眼を憚ることなく次々に袋の中のパンを取り出しては食べ続けていました。

 

まぁ、匂いがするわけではなし、耳ですからパン屑が落ちる訳でもないので迷惑は掛かりませんが、何かに憑りつかれたようにパンの耳を口にする姿には不気味なものがありました。

 

一体、あの男性は何者だったのでしょうか?